エシカルな観点から日本画を捉え、伝統的な日本美術と現代社会をつなぐ、杉山佳さん。次世代の美術を創り上げていく魅力について伺います。

トップ画像 杉山 佳 「der Rahmen IV 」

――ご活躍を拝見し、大変嬉しく思っています。本日は、杉山さんと日本画の出会いから、現在の活動について伺います。なぜ絵を描く道に進まれたのでしょうか。

絵画や陶芸が好きで、中学生の頃には、進むなら美術がいいなと思っていました。その後デザインにも興味が湧き、美術系の高校に進学しました。その高校では、一年時に美術の全分野を勉強するのですが、その中でも岩絵の具の使用感が肌に合っていたというのが大きいですね。僕は奈良県出身なので、仏画を見たりすることも多く、絵を描くなら日本画かなと感じていました。曾我蕭白 *から影響を受け、日本画の道に進むことを決めました。

曾我 蕭白 *【そが しょうはく:享保 15年(1730年)- 天明 元年 1月 7日(1781年 1月 30日)】は、江戸時代中期の絵師。蛇足軒と自ら号した。高い水墨画の技術を誇る一方、観る者を驚かせる強烈な画風で「奇想の絵師」と評される。

――日本画の魅力とは。

僕にとっては、日本画の精神性が魅力です。日本人は、どこか写実的ではなく抽象的なものの捉え方をしますよね。例えばお花を描いたとき、その花を説明しているわけではなく、余白に季節や空気感を示唆したり暗示出来るところが日本画の魅力ではないでしょうか。浮世絵にもある、「洒落の感性」が好きですね。日本画の画材が魅力という人は多いですが、僕は、ものの捉え方の部分で日本画の美意識を感じます。

杉山 佳 大学卒業制作作品「夏の途」

――現在、東京藝術大学大学院博士課程にご在籍ですが、学部卒業制作から変化はありましたか。

学部卒業制作の頃は、すごく頑張っている感じですね。まだ上手くなかったので、実直に表現できたらいいなと思い、好きだった古いものや建物をモチーフとして選びました。その後、かなり作風は変わりました。当時は過渡期というか、無理をしていた訳ではないのですが、高校生の頃に進路を藝大にシフトチェンジした時から「こういう作品が日本画らしい」とか、「藝大の伝統ならでは」という感覚に囚われている時期がありました。藝大日本画専攻 25名の中で残るためには、または公募展で選ばれるにはどう自分を表現したら良いか、などということをいつも考えていたのですが、シンプルに自分が描きたいものは何かと問うた時に、思い悩む時期でもありました。

杉山 佳 大学院修了制作作品「der Rahmen」

――現在はどのような活動をされていますか。絵を描くにあたり、モチーフも変化していると思いますが、最近はどのようなコンセプトをお持ちですか。

毎年2回、春と秋に創画会という公募展に応募しています。少なくとも年に2作は必ず、30号の作品を春に、100号の作品を秋に出しています。最近のモチーフとしては、描きたいものを何かに見立てたり、人を描かないけれど人を表現するなど、「不在感」をテーマにしています。伊藤若冲*も、仏画の涅槃図(ねはんず)をテーマとし、人物を大根や野菜などに見立て表現していたりしますが、僕の作品「涅槃(ねはん)」においても、家具などで人を見立て釈迦を描かない、といった構図の作品に挑戦しています。
僕の好きなHIP HOPには、サンプリングという引用の手法があります。そういう感覚で僕自身の作品も制作しています。全ての人に理解していただけなくても、ヴィジュアル的に楽しんでいただければ嬉しいですし、ヒント的なタイトルなどを様々な形で作品に忍ばせているので、ご理解いただける方にはより深いところまで、僕が作品に込めた思いや意図するところを感じていただけるのではないでしょうか。

伊藤 若冲*【いとう じゃくちゅう:正徳 6年 2月 8日(1716年 3月 1日) – 寛政 12年 9月 10日(1800年 10月 27日)】は、曾我蕭白らと共に「奇想の系譜」に並び称される、 江戸時代中期に活躍した京絵師。写実と想像を巧みに融合させ、水墨画、障壁画、版画、絵巻(画巻)、屏風絵など数多の作品を生み出した。独自性が際立つ色彩鮮やか且つ高度な描写は、当時の文化人や知識人を魅了した。

杉山 佳「涅槃」

――日本画には古くから伝わる道具や材料がありますが、それらを使い新しい世界を生み出すことについて、ご自身の作品との関わりについてはどのようにお考えですか。

日本画には、岩絵の具や和紙のほか、一般の皆さんに知られていない独自の技法もあります。それらをワークショップで紹介することで伝統的な表現様式を知っていただくと共に、美への心地良さや感動をお届け出来たら嬉しいですね。古くから炭が使用されてきた技法を、僕らの生活に身近なコーヒーや紅茶で試したりすると、とても驚かれます。伝統から生み出される魅力をより多くの皆さんに感じていただくには、いかに分かりやすく伝える工夫が必要か、試行錯誤を重ねています。

――コンスタントに発表の場を作られていますね。

日本美術を普及させることが出来れば、表現の方法はどのような形であっても良いと思っています。僕は現在、nens(ネンズ)という日本美術を背景に持った同世代作家のグループでも活動しています。オルタナティブな空間で作品を展示したり、ライブペインティングをしたり、違うジャンルの人々の中で活動を展開することで、日本画の世界観が広がっていくことを肌で感じています。
古来から屏風や襖が日本美術により形成されてきたように、日本画は「空間」や「機能」への親和性が高いと感じています。美術館に絵を飾ると何でも格好よく見えますよね。絵を見るためだけの空間。そうではなく、本来別の用途のある空間で絵を制作することで、新たな感性の広がりを見い出すことも出来ます。自己の制作活動と並行して、nensの活動も行えたら良いですね。今後も作家として活躍することを前提として、ものづくりを続けていきたいです。


Profile
杉山 佳(すぎやま けい)
日本画家 1988年、奈良県生まれ。2011年、東京藝術大学美術学部絵画科日本画入学。2015年、同大学卒業制作にて台東区長賞、サロン・ド・プランタン賞、平成藝術賞を受賞。2017年、同大学修士課程修了制作にて東京藝術大学大学美術館買い上げ賞、平山郁夫奨学金賞、守屋育英会奨学金賞を受賞。同年、創画会初入選。2019年、第45回東京春季創画展春季展賞を受賞。現在、個展やグループ展、日本美術集団 「nens」におけるワークショップやライブペインティング、空間演出等で精力的に活動。