木片を組み合わせて、ヨーロッパの街並みや海辺の風景、花・動物までも美しく描く「タラセア」。本場スペインで「タラセア」の伝統技法を学んできた星野尚さんは、伝統的な象嵌手法に独自の工夫を加えた作品をつくり続けている。

――タラセアとの出会いはスペインで

若い頃、インテリアの仕事に興味があった私は、ある日父と母に新居の家具探しを命じられました。そしてスペインの家具と出会ったのです。独特の雰囲気を放ち、釘を使わずに木を再利用できるように作られている点に非常に興味を惹かれた私は、お金を貯めスペインへ渡りました。スペインでの美術学校に入り、 私はたまたま先生がやっていた「タラセア」に注目しました。興味を持った私は先生に頼み、授業とは別に個人的に先生の自宅の工房で教えてもらうことができたのです。

――なにげなく作り始めたタラセアで、まさかの展覧会

帰国してからもインテリアの仕事をしようと思っていましたが、当時の日本はインテリアに凝るような世の中ではありませんでした。時間を持て余している中、暇つぶしと言っては怒られるかもしれませんが、スペインで教わった「タラセア」の制作をはじめました。作品が20個ほど溜まったときに、知り合いから『有名な陶芸家の先生がお怪我をされたので、代わりに展覧会をやってくれないか』という話がありました。その場所は有名な画廊だったので驚きましたがお引き受けすることに。展覧会が始まると父や母の知り合いが来場したということもあり、2・3日ですべて売れてしまいました。しかも2・3年くらい先まで予約が入ったのです。それから私は「タラセア」で頑張っていこうと決めたのです。

――木の表情を見て少しずつ組み合わせていく

「タラセア」を制作する際は、まず精密画のようなデッサンを描き、使用する木を選んでいきます。そしてその絵は晴天にするのか荒れた空にするのか考えます。何故かというと、作品の中の風景はどちらからどの程度光が当たるのか考えるのが大事だからです。そして一番明るい部分と暗い部分を決め、小さいパーツから作り始めます。

街並みの作品の場合、いくつか壁があるので壁の中の窓やドアなどのパーツを作って、そのパーツを組み合わせてひとつの壁をつくり上げます。その隣の壁は、先に作った壁に使った木の色や形とのバランスを考慮して作っていきます。さらにそこに屋根瓦を入れて屋根を作っていき、隣の屋根へと移っていきます。

 私の作品は平面ですが鉋をかけて光沢を出しているので、光が反射するようになるんです。そしてそれぞれのパーツで木の種類や木目を変えているので、見る角度によって光の反射が変わり、立体的に見えるようにしています。

――ヨーロッパの風景を題材に

ヨーロッパの中でもスペインやイタリアの風景が好きで題材として扱うことがあります。白い壁に太陽の光が当たって、影がはっきりと出ます。コントラストが綺麗です。街灯があるとまたいいですね。個人的には綺麗すぎる建物よりも、壁がぼこぼことして崩れかけているようなものが好きです。

友人と一緒にまだ見ていない場所を回り、そこでデッサンをするのですが、人が多すぎるときはその場でざっとラフを描いてしまい、カメラでパーツを撮っておき、あとでゆっくり描きます。建物の屋上から撮影すると、以前スペインの先生から教わった「空を飛ぶ鳥の目線」というものが見えてきます。たくさんの屋根瓦が広がる素晴らしい風景です。

――細かいパーツで大きな作品をつくりたい

この1・2年の間には、「細かいパーツで大きい作品を作っていきたい」と思い、現在デザインを起こしています。1つは、コルドバ・グラナダ・セビリア(スペイン南部のアンダルシア州にある都市)の風景画です。私が通っていたのがコルドバの学校だったので。ローマ橋があり、その後ろにはスキ―タという素晴らしい教会があるというものです。グラナダの作品はアルハンブラ宮殿からアルバイシン地区を一望する風景です。白壁で統一されたアルバイシンの建物が整然と並んでいる様子は圧巻です。本当に細かい家々を多く作ることになると思うので、もう火を噴くぐらい頑張らないといけないかなと思います(笑)。

もう一つはセビリアの大聖堂です。アーチの中から大聖堂が見えるものです。これは大聖堂の部分がとても細かくなりそうです。体力の低下と目の衰えを考えると自分の限界はあと10年程だと思っているので、その間に大作が完成するといいなと思っています。完成を楽しみにしていてください。


Profile

星野 尚(ほしの たかし)

1955年、兵庫県に生まれる。スペインコルドバ国立美術専門学校卒業。帰国後大阪不二画廊にてタラセアの初個展。その後日本・ヨーロッパの各地でタラセアの展覧会を開催、好評を博し続けている。