黒い焼杉の外壁に包まれたこの家は、渡りあごと板倉工法(いたくらこうほう)を用いて建てられている。インスピレーションを受けたのは、地元大工の建てた家だったという。地元で栽培された木をふんだんに取り入れ、伝統的な大工の手仕事で建てられた家。後世に残したい伝統と、その技術を使って建てられた家。「住むならこんな家がいい」。理想の住まいづくりの始まりだった。



大工の技と木の良さを活かす

板倉工法を採用

在来工法やツーバイフォー、SE構法など様々な工法がある中で、こちらの住まいは聞きなれない「板倉工法」を採用している。柱や梁などに溝を掘り、そこに厚さ30ミリの杉板を落とし込んで壁をつくる。その杉板が住まいを強固に支える耐力壁となり、木目の美しい内部の壁となる。

板倉工法の魅力は、木本来の美しさをそのまま住まいに取り込めることだけではない。優れた断熱性と蓄熱効果は室内を効率よく暖める。また、適度な通気性は、クリーンな空気環境を保つ。

溝のある柱に杉の板を落とし込む



大工が刻む柱や梁

この住まいで使用されるたくさんの木材は、平成建設の加工場で大工の手により刻まれた。柱や梁を極力金物を使わず、「継手」や「仕口」と呼ばれる方法で接合する。継手で接合され、現しになった柱や梁は、美しい木の表情を見せてくれる。

大工が一本一本刻んだ材を一度組んで納まりを確認する。



堂々とした佇まいの外観

外観は焼杉と大きな切妻屋根のシンプルな構成。下屋(げや)と縁側を設けた昔ながらの住まいは、窓格子や庇の造作一つひとつにも大工の繊細な技が発揮され、堂々とした風格が漂っている。


焼杉の壁、鬼瓦

外壁に使用したのは、日本の伝統的な外装材である焼杉。しかも、現場で杉板を焼き、それ自体もつくるという徹底ぶり。表面を焼き、炭化させることで腐食を防ぎ、害虫からも守ることができる。また、焦げた杉の木の深い灰色や独特の質感がインパクトとどこか懐かしい風合いを与えている。



屋根には美しい瓦が並ぶ。これらは地震に強いとされる「縦桟(たてざん)工法」で施工され、屋根の南北には、焼成前に「ヘラ書き」と呼ばれる名入れを施した鬼瓦が設置された。鬼瓦と屋根の軒先の万十と呼ばれる部分には、家紋である「丸に桔梗」の紋を焼き入れている。

木の温もり溢れる室内空間

ダイニングは、2階の床が現しとなった天井を設け、落ち着いた空間に。キッチンの背面収納は、大工オリジナルの製作家具。水廻りの床には、耐水性に優れた漆を塗っている。

リビングは、ダイニングとは対照的に吹き抜けのある開放的な空間 。 木材の接合部分に極力金物を使用せず、木同士を継手によってつなぎ合わせているため、仕上がりに木の美しさが際立つ。

(設計・施工 (株)平成建設  在来工法2階建て)