すべては一枚の壁から。茅ヶ崎から世界へ躍進するキャラクターデザイナー

キャラクターデザイナーRyuAmbeさん

地元である茅ヶ崎で活躍するキャラクターデザイナー、RyuAmbeさん(以降Ryuさん)。サマーソニックの公式グッズや、帽子ブランドCA4LAとのコラボレーション、個展の開催など、多岐に渡る活動で多忙な中、最近の仕事や自身の制作スタイル、海外暮らしの思い出やキャラクターデザイナーになった経緯に至るまで、たくさんの話を、今現在の等身大の言葉で語ってくれた。

茅ヶ崎の街で見かける、あのイラスト

茅ヶ崎駅から海へと繋がる雄三通りを歩けば、歩道のプランターや店舗の壁面に描かれたポップで愛嬌たっぷりのキャラクターたちに目が留まる。これらのイラストはRyuさんの作品で、街中のあちらこちらに点在している。キャラクターデザイナーとして駆け出しのころ、「この壁に描かせてもらえませんか?」とお店の人に直談判して描いていたという壁の絵は、今ではそれを見た人から「うちの壁にも」と依頼が来ることもあるようで、広告塔にもなっている。「お店の前で立ち止まって、壁の写真を撮っている人を見ると嬉しいですね」とRyuさん。照れながらも笑顔で話してくれた。

仕事に関するアイディアや、メモなどが書き込まれた白無地のノート。見せてもらったのは、今回はじめて購入したものだそうだが、紙の書き味が良いという。仕事道具と言えるこのノートからたくさんの人に愛されるキャラクターたちが生まれている。

キャラクターデザイナーと名乗る理由

ご自身の職業について、キャラクターデザイナーと称するRyuさん。子どもの頃から、アメリカのカートゥーンアニメやコーンフレークのパッケージに描かれたキャラクターが好きだったという。イラストレーターやアーティスト、他にも様々な呼び方があるが、「自分が具体的に何をしているのかっていうと、“キャラクターをつくる”ことだったから、そう名乗っています」と語るRyuさんの作品には、大人だけではなく子どもが見ても、絵に込められたストーリーやメッセージが分かりやすく描かれている。「僕の絵は、たぶん難しい絵じゃないので。キャッチ―な表現ができたらなって思っています」と、作品に対するこだわりを教えてくれた。子どもの頃に好きだったキャラクターのように、難しい言葉がわからなくても絵を見ればなにか共感できるものがある、そんな思いがRyuさんの創作活動の根底にあるようだ。

絵を描くときは目から描くというRyuさん。「バランスが取りやすいので、目から始めて、描きながら決めていく感じです」愛用のペンはラミーというドイツの万年筆。下書きもなしに、みるみるうちにキャラクターが出来上がっていく。

どんな環境でも、絵を描くことはやめなかった

絵を描くのが好きだった幼少期を経て、デザインコースのある高校に入学したというRyuさん。その後も美術を学んだのかと思いきや、「服飾の専門学校にいったんですよ。ファッションデザイナーになろうと思って」と、意外な答え。「結果的に、キャラクターの服装とか細かいところまで描いてるので、行って良かったのかなって思います」と話す。専門学校卒業後は、“自分の本当にしたいこと”は何かを探すため、絵からも服からも、そして日本からも離れ単身カナダへ。「身一つで行ったので、貧乏生活でしたね。ポテトチップスが夕食みたいな」とRyuさん。見知らぬ土地で一人、コーヒーショップや日本食レストランでアルバイトをして過ごす日々。日本にいた頃とは全く違う環境の中で、変わらずずっと続けていたのは、やはり絵を描くことだったという。「絵は趣味で描いてました。絵はずっと好きでしたね」コーヒーショップによく来るお客さんと絵を通じて友達になったり、新鮮な環境に身を置く日々は、Ryuさんの人生においてかけがえのない経験となった。

覚悟を決めたはじめての個展

Ryuさんが「もうこれでやっていこう」と絵で勝負する覚悟を決めたのは、今から2年前。茅ヶ崎にあるギャラリーも兼ねたビンテージ家具店Mar-Vista Garden(マービスタガーデン)で初めて個展をしたことがきっかけだった。カナダから帰国後の数年間は、アルバイトをしながらアルバイト先のオーナーや知人伝いに仕事の依頼を受け絵を描く生活を送っていたが、個展のお客さんの反応を見て「自分が思った以上に来てくれるんだなって。そこからもっと絵に時間を費やしたいって思うようになりました」と語る。その頃からインスタグラムを通じて仕事の依頼が徐々に来るようになり、最近ではサマーソニックの公式グッズや、商業施設のショーウィンドウペイント、ファッションブランドとのコラボレーションなど活動の幅を広げている。

MAR-VISTA GARDEN(マービスタガーデン)。茅ヶ崎一中通りから少し奥まった場所にあるビンテージ家具や洋服を取り扱うお店。若手アーティストの個展やイベントも開催している。

マップの仕事も多く手掛けるRyuさん。写真は奈良のマップ。ノートの下書きとスマートフォン画面の清書では、線がなくなり印象が大きく変わっている。その理由を尋ねると、「奈良にはあまり言ったことがなかったんですけど、依頼主からこういう道があってっていうのを画像で送ってもらって、その通りに描いてそのマスに当て込んでただけだったんです。でもこれはちょっと違うなって、奈良に行ったんです。実際に街を回って、帰ってきてから描いたら、自分なりの奈良ができました。やっぱり見ないとダメなんですよ」とのこと。その話を伺って、マップを見た時に感じたライブ感のようなものが、実体験を通して描かれているからということに納得。Ryuさんの作品づくりに妥協はない。

茅ヶ崎駅から徒歩3分の『bowl market juice & deli』にはRyuさんの作品が所狭しと並ぶ。紙だけではなく、石や木、ガラス瓶など様々な素材をキャンバスに、表情豊かなキャラクターたちが生き生きと描かれ、ひとつひとつをじっくり見るのも楽しい。

オフはインプットする時間

仕事が落ち着いたら、個展に向けた作品制作の前にどこかに行きたいと、オフの過ごし方を教えてくれた。「オフはインプットする期間。出して消費してばっかりいると、出てこなくなっちゃうので。どこかに行ってインスパイアされて帰ってくるというリズムですね」とRyuさん。海外へ行き、2か月ほど家を借りて住むことも。「旅というよりは、別の街に暮らすみたいな感じなんです。長くいると変化があったり、いろんなシーンが見られて、そういうのを見るのが好きなんですよ」と話す。最近車の免許を取り、休みには運転もするそうで、街中を走っている時にもいろんな気づきがあるんだそう。キャラクターデザイナーとしてのコンセプトに“CHILDISH MIND”を掲げるRyuさん。いつでも子ども心のような新鮮な気持ちを持ち続けるという思いが、Ryuさんの作品に息づいている。

Ryuさんが暮らした街を題材にした『TRIP DIARY ZINE』。行った先々のレシートや新聞の裏に描いた“落書き”をコラージュした作品で、現在までに【LA~SAYURITA(メキシコ)編】【PARIS~LISBON~SELVIA~MADRID編】【NEWYORK 編】の3冊が発表されている。

気になる今後の活動は?

今後の展望について尋ねると「ニューヨークやロサンゼルス、ロンドンとか、そういう海外のアートが盛んな場所で評価されたいです。挑戦したいですね」と意欲的だ。実はすでにポルトガルとニューヨークにRyuさんの絵があるという。「飛び込みでスーパーマーケットに行って、『ここに描いていい?』って壁に描かせてもらったんです」「壁に描いていると、通りがかる人が『これ好き』とか『いいね』とか言ってくれて、嬉しいですね」とRyuさん。茅ヶ崎で壁に描くようになったのと同じように、海外でも、一枚の壁からRyuさんの挑戦が始まる。「壁は大事です。掲示板です」と語るRyuさん。壁に描くことで生まれるコミュニケーションは、海外へも広がっていく。

Ryu Ambe(キャラクターデザイナー)

オフィシャルサイト https://ryuambe.com/